【ブログ小説】ここだけは確かな場所5

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しばらくしてゲイブリエルが戻ってきたが、顔色は優れません。
ティちゃんは見つからなかったのだ
今頃ティちゃんは何をしているのだろうか。
とても心配だが、きっと大丈夫と期待したり、また悩んだりと、落ち着かない状況が続いた。
その代わりに陸はなぜか、すっかり家族の一員にでもなったように、俺たちの家で落ち着いている雰囲気だった。
「陸くんもお母さんに早く会いたいね。もう少しで会えるからね」
陸は黙っていた。
ゲイブリエルと俺は陸がどうして母親のことをあまり口にしないのか、疑問に思っていた。

次の朝になってもティちゃんは帰ってこなかった。
そろそろ本当にティちゃんのことが心配になり、張り紙を作ろうかという話になった。
だが、新参者の自分たちが張り紙を貼るとよく思わない人もいるのではないかと心配でした。
今日もゲイブリエルは仕事に出かけます。
俺は昨日、畑を貸してくれると言っていたお宅で打ち合わせをすることになっていた。
そこへ陸を連れて行く予定だったのです。

準備をしていると、そのお宅から連絡があった
受話器を取ると、ティちゃんがまた現れたというのです。
今家にいるということで、俺はカバンを持って慌てて出て行きました。
陸と俺がそのお宅に着いた時、ティちゃんは子どもと楽しそうに遊んでいました。
エサも持ってきていたので、与えると、ティちゃんはすぐにバリバリと音を立てながら美味しそうにエサを食べていました。
よかった、これで一安心だと思い、カバンに入れて連れて帰ることにしました。

畑の打ち合わせは、また後日するということで、ティちゃんを家に連れて帰ることにしたのです。
俺はゲイブリエルにLINEし、陸にもう外に出してはいけないと、念を押しました。
陸は理解したようにうなづきました。

ティちゃんはようやく新居で一息つくことが出来、落ち着くことが出来ました。
いつものベッドでまだ少しそわそわしていますが、おとなしくなりました。
ティちゃんはやっぱり戻ってきてくれたのです。
それが本当に嬉しかったのです。
その夜俺たちは三人と一匹で寝ることにしました。
陸は先週まで全然知らない少年でしたが、なぜか今だけ一緒に住んでおり、とても不思議な気分になりました。
一緒に寝ていると、この時だけ家族のような気分になるのです。
陸はもうすっかりこの家に慣れてしまい、時折寝言を言ったりするほどでした。

そんな時間もあっという間に過ぎ去り、陸がお母さんの所へ行く日がやってきました。
母親は約束の時間よりも2時間遅れてやってきました。
母親が姿を現すまで、俺と陸は手を繋いで待っていました。
陸は母親の顔が見えると、俺の手をギュッと握りました。
その手の握り方をなんだか忘れることができませんでした。
陸は手を離して、母親の方へ歩いて行きました。
母親は警察と話をしていました。
俺には目もくれません。
しばらくして俺の方へやってきた母親は「やっぱりあなただったのね。なんなんですか?陸を誘拐したんですか?」
「え、僕がですか?」
警察は俺を疑いの目で見ました。
「いえいえ、そんなわけありませんよ。僕は・・・。」
「でも、あなたが連れていかなければ、陸があなたと一緒にいるわけないじゃないですか。あなたに会ったのはあのインターチェンジが初めてなんですから」
「ですから、陸くんは気づいたら僕の車に乗っており、仕方がなかったんです。私は決して誘拐なんていませんよ。現にこうして彼をここに連れてきているわけですから」
「そうですね。陸くんは解放されたわけですから、誘拐ではないと思います」
警察はようやく俺をフォローしてくれた。
「そうですか。今回はそういうことにしときますが、今度何かあったら、被害届を出しますからね。その時は慰謝料を請求させていただきます」
「え、そんな」
母親は陸の手を引いて車に乗って帰っていった。
俺はこの母親とはもう一切関わりたくないと思った。
陸は俺と目を合わせることもなく、車に乗せられ見えなくなった。
俺は何も悪いことをしていないし、むしろいいことをしたはずなのに、こんなに責められていることで、自分が何か悪いことをしてしまったのではないかと錯覚してしまうほどだった。
警察は「まあまあ、こういうこともあるさ、あまり気にするな。じゃあね」と言ってそそくさと帰っていった。
俺だけ何だか腑に落ちない状態で、家路に着いたのだ。

ゲイブリエルに話すと、「何その親」と一緒に怒ってくれた。
それにしても、なんだか奇妙な一週間はすぐに過ぎ去り、俺たちはやっと新生活をじっくり味わうことができるようになった。
男二人と一匹の猫が、東京に嫌気がさし、長野の田舎に移住してきたのだ。