【ブログ小説】ここだけは確かな場所15

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調べてみると、家から30分ほどのところに児童相談所があった。

ゲイブリエルと訪れてみると、かなり大きな田畑の前に大きな古民家がある少し素敵な場所だった。
そこには子どもから大人までたくさんの人が生活しているように見えた。
その責任者に鈴木せきさんというご老人がいた。
せきさんは、何年も前からこの施設で職員をされているそうだ。
「あの、相談したいことがありまして」
「はい、はい、よくいらしてくれました。こんな遠いところまで」
「いえ、家が近くにあったもので」
「そうなんですか?珍しいですね。若い人がこの近くに住んでいるなんて」
周りを見渡すと結構若い人がいるのに、この人たちはここに住んでいないのか?と思った。
「そうですよねwあのちなみにここはどういう場所なんでしょうか」
せきさんは児童相談所だけどと言わんばかりの顔をした。
「いえ、児童相談所なのに、青年も結構いたり、大人の方もいるんだなと思いまして」
「ああ、ここはその駆け込み寺みたいな役割もしているんです」
「え」

「もともとこの施設で育った子や、社会で問題を抱えてしまった人、仕事を失ってしまった人、うつ病を患ってしまった人など様々な人を受け入れているんです」
様々な年齢の人がそこら中にいるのが見えた。
「そうなんですか」
「ここにいる人たちはほぼ無償で生活することができるんです、その代わり畑を耕したり、施設の運営を手伝ったりしてもらっているんですよ。
でも何もできないほど心を壊してしまった人もいますから、ここで手伝ってくれている人たちはもうすでにほとんど回復されている人たちばかりです」
「そうなんですか」
「人はどんなに傷ついてもまた、立ち上がることができるんですよ。回復したら、もう動きたくて仕方なくなるんですね。始めの頃は何もできなかったのに。私は傷ついた人が、元気になって旅立っていくのをとても楽しみにしているんです」
「そうですよね」
俺はこの人がとても素敵な人に感じた。
もし東京で住んでいた時に、この施設のことを知っていたらお世話になっていたかもしれないなと思った。
「あの、今日来たのは、小学6年生の男の子のことでして」
俺はせきさんに、陸のことを話した。
「そうですか。それは目に見えない、メンタル面での虐待ですね。親は虐待していることを周囲に知られたくないために、外傷を残さない虐待をすることがあります。そういう大人は虐待がいけないことだとわかっているけれど、自分の思い通りにならないことに腹が立ち、隠れて虐待をしてしまうんです。一度虐待をして、うまくいったので、ストレスがたまるとそれを繰り返してしまいます。家の中は閉鎖された空間ですから、誰にもバレなければなんでもしていいと思っている人もいるのでしょう。中にはこれは躾の一環だからという人もいます。本気でそう思っている人もいるんですよ」
「そうなんですか」
せきさんはとても険しい顔をしている。
「このケースは虐待を表面化させることが非常に難しいです」
俺は心配していたことを言われた気がして、落ち込んだ。
「虐待だと立証することがとても難しいです、ですが、その子のように、人に助けを求めているのであれば、何か行動を起こせるかもしれません」
「本当ですか?」
「はい」
「あの、もしもう一度その子が、私の家に来たらどうすればいいのでしょうか」
「その時は警察に連絡してから、うちに連れてきてください。そうすれば、私とあなたの間で合意があれば、あなたの家に連れ帰ることもできます。もちろん内で預かることもできますので、相談しにきてください」
「本当ですか?」
「はい」
「ありがとうございます。今彼に何かできることはないでしょうか」
「残念ながらそれは・・・。もしその子が家の近くに住んでいるのであれば、様子を見たり声をかけることができますが、遠いところに住んでいるとなると、ケアするのは難しいように思います。残念ですが、今はまた彼が何かアクションを起こしてくるのを待つことしかできないでしょう」
「わかりました。ありがとうございます。また何あったら相談させてください」
「はい。いつでもいらしてください」