【ブログ小説】ここだけは確かな場所19

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翌朝俺たちは家に帰った。
その後は陸と一緒に畑仕事をしたりして過ごした。
東京に住む陸にとって畑仕事をすることも立派なGWの過ごし方かと思った。

GWも終わりが近づき、陸は帰らなければならない日がやってきた。
「ねえ、陸」
陸は少し寂しそうにこちらを見た。
「これがおじさんたちのメールアドレスだよ」
そう言って俺はアドレスを書いたメモを陸に渡した。
「ケータイのアドレスじゃなくて、パソコンのアドレスだ」
陸はメモに書かれたアドレスを見ている。
「このアドレスが陸のアドレスだ」
俺はその下にもう一つアドレスを書いていた。
「俺たちはこのアドレスで連絡を取れる」
陸は俺の顔を見た。
ゲイブリエルは笑っている。
「このサイトへアクセスして、ログインすれば、俺たちからのメールが見れるからね。陸は何かあったら、ここに書いて送ればいい」
陸は笑顔になった。
「へえ、これは秘密の基地だね」
俺は笑った。
「そうだよ。ここならお母さんに気づかれずにやり取りできるかもしれない」
「うん」
その後陸にログインの仕方を教え、メモにもそのやり方を書いた。
これで陸から連絡が来なくとも、陸の状況がわかることになる。

俺たちは陸を東京に送りながらたくさん話をした。
楽しかったGWのこと、これからのこと。
楽しいことをたくさん話した。
陸はこれからまた、苦しい日々に戻ってしまうかもしれないが、それを忘れられるくらい楽しい思い出を作ってあげたかった。
ここには陸をいじめない人がいることをわかって欲しかった。
メールの中でしか会えなくなるけれど、ちゃんと味方がいるんだということに気づいて欲しかったのだ。
俺たちは陸を家に届け少し話してから、帰ることにした。
俺は陸を抱きしめた。
「陸、俺たちがついている。苦しくなったらいつでも連絡するんだ。すぐにやってくるからな」
「うん」
陸は目に涙を溜めていた。

俺たちは長野への家路に着いた。
陸がいるだけであんなに賑やかだったのに、もう陸はいなかった。
寂しくなったのは俺たちの方かもしれない。
陸は子どもなのに、親の帰りを一人で待っているんだ。
そっちの方が寂しいはずなのに、俺たちはどうしてこんなことを思っているのだろうか。
「ねえ、メールでやり取りするのって、良いことなのかな?」
「え?」
ゲイブリエルが心配そうに聞いてきた。
「勝手にメールでやり取りしていたなんてわかったら問題になるんじゃないかな」
「そんなことにはならないよ。メールしていただけだし。何も悪いことはしていないんだ。俺たちは陸を救おうとしているんだから」
「そうだよね」
この世の中は良いことをしていても、本当に正しいことなのか、批判されるようなことはないのかと考えなければならない。
テレビでは自分の意見を言った人が炎上し、干されたりするのだ。
正しいことなのかいちいち考えながら行動しなければいけないのだ。
それがたとえ本当に正しいことだとしても、俺たちは迂闊に行動することすらできない。
様々なルールが混じり合い、そのルールを全て勉強しなければあとでペナルティが課せられることだってある。
知らなかったでは済まされないのルールはたくさんあるのだ。
誰が決めたかわからないルールをいちいち調べ、従わなければならない。

ちょうど東京を出た頃、ゲイブリエルのスマホが光った。
ゲイブリエルはネットのメールが着ても通知が出るように設定していたのだ。
「あ、陸からメールが着たよ」
「お、初めてのメールだね」
俺はなんだかとても嬉しくなった。
”おじさんたち、今日は本当にありがとう。僕はとても嬉しかったよ。おじさんたちと過ごすことができて、本当に楽しかった。
また遊ぼうね。”
「へえ、陸はちゃんと文書を書けるんだね」
「ああ、今の子はPCもちゃんと使えるんだ」
俺たちは笑っていた。

「あら陸ちゃん」
陸の母親と妹が帰ってきた。
「一人でお留守番できたの?偉いわね!よかったわ。お母さん心配だったんだけど、これならもう陸はいつでもお留守番できるわね」
陸の顔が少しこわばったが、まだ元気な顔をしていた。
「うん、僕、一人でお留守番、得意になっちゃった」
凪子は一瞬ムカっとしたが、すぐに笑顔になり陸の方へ歩いてきた。
「陸ちゃんは一人で何をしていたの?お母さんたちはとても楽しいGWを過ごしていたの。ねえ、空ちゃん」
「うん!」
空は大きな声で返事をした。
陸はそれでも笑顔を消さなかった。
なぜなら自分だってとても素敵なGWを満喫したのだから。
机にはお土産がたくさん置かれた。
陸がお土産に手を触れようとすると
「だめ、手を洗ってきなさいよ!それにそれ!あんたのじゃないから!」