【ブログ小説】ここだけは確かな場所11

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俺はゲイブリエルに一部始終を話した。

「ねえ、何こそこそ話してるの?」
「こそこそって、君のことだよ」
「君のお母さんが、君を連れてきて欲しいって」
「え、どういうこと?」
「どういうことも何も、君がここにいることを言ったら、すぐに君を連れてきて欲しいって言ったんだ」
「お母さんが?迎えに来ないの?」
「来ないんだ。こっちから連れて行くことになったんだよ」
「なんで?なんでこっちから行かないといけないの?」
「わからないよ」
「いいよ。行かなくて、僕は家出中で帰りたくないんだ。あんな家にはもう帰りたくない!」
「だとしても、場所がわかっている以上、もう帰らないといけないんだ。大人の事情なんだよ」
「大人の事情なんて知らないよ。僕は帰りたくないんだ」
「OK、OK。まず話をしようよ」
ゲイブリエルが口を開いた。
「どうして君は帰りたくないんだ?お母さんと喧嘩でもしたのか?」
陸は急に黙った。
「喧嘩・・・。」
「違うのか?」
「喧嘩かな」
「そうか、じゃあその怒りが収まるまでいればいい」
「ゲイブリエル」
「仕方がないよ、無理に連れて帰っても大変だよ。陸はここに来る方法がもうわかったんだ。無理やり返しても、またすぐに戻ってくるかもしれない」
「そうだけど」
「とりあえず、今日は泊まって、明日また考えればいい」
「うん・・・、親と話をした方がいいよね。そうだ。ゲイブリエルあの親と話してくれないか?」
「嫌だよ」
「いいじゃないか」
「日本語わからないよ」
「また」
俺は呆れた顔をした。
「君は十分うまいじゃないか」
「でも交渉なんてできないよ」

そう言われると返す言葉がなかった。
とりあえず今日は陸を泊めることにした。
警察に話すと了承を得られた。
しかし早いうちに帰すよう念を押されたのだ。
「それにしてもどうして、こっちから送り届けないければいけないんだろう。交通費だってバカにならないんだよ。こっちにそんなお金がなかったらどうするんだよ。陸は向こうの事情でこっちにきてるっていうのに」
「まあまあ、それはそうだけど、相手は厄介な人なんだろう?今は従うしかないんじゃないかな」
「それに陸は帰りたくないって言っているし。荷物とかそういうのだったらしばらく置いていても問題ないけれど、陸は人なんだ。何日もこちらで保護するわけにもいかないし。陸がいたいっていうなら気のすむまでいさせてあげたいけど、あの親がなんて言うかわからないし」
「だけど、なんて言われようと、今はすぐに帰すべきではないよ」
「そうだけど」
俺はもうどうすればいいかわからなかった。
せっかく変な人から逃れるために、田舎へやってきたのに、結局東京の変な人に振り回される結果になったのだ。
どこに行っても状況は変わらないのか。

俺は陸が寝ている部屋へ行ってみた。
「陸くん、どうしてここへ来ちゃったんだ?俺たち何か君の役に立てるかもしれないよ?」
「ねえおじさん、陸って呼んでいいよ」
「え」
「陸くんてなんか他人みたい」
「他人みたいって」
「いいじゃん陸で」
「まあいいけど」
「君はどうしてここに来たんだ?」
「君じゃないよ、陸だよ」
「だからどうして陸はここに来たんだよ」
陸は答えなかった。
その代わりゆっくり俺の手を握ってきた。
「秘密」
「え」
そう言って目を閉じてしまった。
あの時と同じ握り方をした。
陸の母親が迎えに来た日と同じ手の握り方をした。
これがどういう意味なのかわからない。
でも何かの意味があるのかもしれない。
どういうことなのか。

陸はまた涙を流していた。