【ブログ小説】ここだけは確かな場所14

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俺たちはとりあえず帰りたかった。

聞いてはいけないもの、見てはいけないものを見たような気がする。
いや、見なければならなかったものを見たような気もする。
陸の母親は陸を虐待していたのだ。
いやこれを虐待と言えるのだろうか。
虐待とは、体にあざがあったり、ご飯十分に与えなかったり、母親が恋人に夢中になって子供を十分に世話しないことをいうように思う。
陸の家族の場合は、それがいじめなのか、嫌がらせなのか、躾なのかわからない程度のものだった。
もしこれが虐待だとすれば、見えない虐待なのだ。
そして、もしもこれが躾だとすれば、間違えた躾であると俺は思っている。
何よりも重要なことは、陸が親の行動を嫌がっており、俺たちの家で生活したいと言っていることである。
陸が嫌がっていなければ、俺たちは悩む必要もなかった。
陸が何度もうちにやってこなければ、それほど考える必要もなかったのである。
でも彼は俺たちの家でもう一週間以上も過ごし、2度も家にやってきたのだ。
そして彼は俺たちに何かを訴えようとしている。
俺はそれを見過ごすわけにはいかなかったのだ。

「ねえ、ゲイブリエル。どうしたらいいかな」
「わからない」
「あの親が言っている、慰謝料のことをまず解決したいな。いや、陸が虐待されていることを解決したほうがいいのかな」
「どちらにせよ、どうやって解決するつもりなんだ?」
「知り合いに弁護士がいるんだ。俺の同級生が弁護士をやっているってSNSで見たことがあるんだ。とりあえずその人に連絡を取ってみようと思う」
「そうか、なら両方聞くことができるね」
「ああ、一石二鳥かもしれない」

長野に着くと早速、弁護士の友人に相談をしてみた。
慰謝料に関しては、法的な文書が届くまで、放っておいていいと言っていた。
彼女が法的な文書を用意するとは思えなかった。
虐待に関していえば、まず現状では陸が受けていることは虐待と断定することはできにくいと言っていた。
しかしもし虐待だと思ったのであれば、児童相談所へ相談することが可能だという。
本来であれば、虐待を見つけたら、児童相談所に連絡しなければならないそうだ。
俺は近くの児童相談所へ行ってみることにした。

陸は今どんなことを考えているのだろうか。
母親のことをどのように考えているのだろうか。
俺は虐待をされたことがなかったため、陸の気持ちを知ることはできなかった。
だが、いじめられた時のことを思い出してみたら、誰にも知られたくない、何も起きて欲しくないということ。
そしていじめた相手に腹がたつこと。もういじめないで欲しいと思うこと。
それくらいしかわからなかった。
誰にも気づかれたくなかったはずなのに、陸はどうして俺に助けを求めてきたのだろうか。
俺は陸と初めて会ったあの日、雨の中外に出されている陸を庇ったのだ。
それを見て陸は俺たちの車に忍び込んだのかもしれない。
俺は陸が虐待されているということをすでに知っていることになる。
だから、だとしたら、この現状をどうにかしてくれる大人になって欲しかったのかもしれない。
それにしても、陸は今後俺たちの家にやってくることがあるのだろうか。
また俺たちの家にやってきた時、今度はどうすれないいのか。
陸が虐待されているかもしれないのに、今度は陸を返すなんてことはできない。
陸の気持ちを尊重したいと思っているから。
しかし、もしも親の指示に従わなければ俺たちは犯罪者になってしまう可能性だってあるのだ。
どうすればいいかわからなかった。
だからやっぱり、誰かに相談しなければならないのだ。