【ブログ小説】ここだけは確かな場所7

ブログ小説

「はい、それでは授業を始めます。みんな保健の教科書を出してください」
生徒たちは教科書を取り出した。

「はい、今日は体の仕組みの話をします。みんなはおならがなんで出るか知っていますか?」
「ええ、おなら?」
女の子が口に手を当てて、恥ずかしそうにしている。男の子は先生がおならと言ったので、とても嬉しそうに、はしゃぎ始めた。
「はい、河合さんはおならをしてはいけないと思いますか?」
「え?おなら?ダメだと思います。みんなの前でしたら、臭くなっちゃいます」
「ハハハハハ」
「はい、そうですね。でもおならは、しないと体に悪いガスが溜まって病気になってしまいます。我慢するよりは出してしまった方がいいのよ?」
「へえ、そうなんだ知らなかった」
「はい、ではおなら以外にも出した方がいいものがあります」
陸は眠たそうに授業を聞いていた。
「なんだと思いますか?」
「はい!ゲップ!」
みんなが笑った。
「はい、田中くん、いいですね。ゲップもそうです。出した方がいいでしょう。これもおならと一緒で体の中から悪いガスを出す力があります。はい、他には何がありますか?」
「うんち、ゲヘヘ」
「そうですね。うんちも同じです。あ中川くん、うんちは他になんていう言い方があると思いますか?」
「他の言い方?そうですよ。大人はみんなの前でうんちとは言いません」
「ええ?そうなの?お母さんはいつもうんちって言ってるよ」
「ハハハハハ」
「そうですね。でも大人が集まったところで、うんちなんていう言葉はあまり使いません。でもどうしてもうんちという言葉を使いたいときはなんていうでしょう?」
「ええ、わかりません。下痢?」
みんなが笑っている。
「違いますw便です」
「便?」
「そうですよ」
「なんか犬のうんちみたい」
「そう、犬のうんちのことを便って聞いたことがあるんじゃないでしょうか。人間のうんちも便っていうんですよ。もうみんなは6年生だから、こういう言い方も覚えておきましょう」
「それでは次のページ」

「ねえ、先生ため息は生理現象ですか?」
陸は目を光らせた。
「竹下くん、いい質問ですね」
「ため息はどっちでしょうか?」
陸は上体を起こして、話を真剣に聞き始めた。
「わかりません」
陸が手を挙げた。
「ため息はいけません!ため息はうるさいからダメです。我慢しないといけないんです」
「あら、陸くん珍しいわね。そんなにきちんと意見を言えるなんて」
「へへ」
「でもね。陸くん、ため息も先生は生理現象だと思いますよ。皆さんはため息を我慢することができますか?」
「ええ」
「ため息は我慢できないんですよ。ため息は気づいたら出てしまうもの。おならは我慢できるかもしれませんが、ため息はより突発的に起きるものかもしれません。ため息は生理現象です」
「生理現象?」
陸は不思議そうに言った。
「先生はため息をつくのは良くないと思いますが、ため息をついた人がいたからと言って、ついてはいけませんと注意するのは間違っていると思います。ため息はつきたくてつくものではありません。我慢することはできません。勝手に出るものです。そういうものを生理現象というんですよ」
「そうですか」
陸は立ち上がった。
「あの!先生!」
陸は鞄にお道具箱の中身を入れ始めた。
「僕、帰ります」
「え、どうしたの?待ちなさい」
陸は先生の手を払いのけた。
「陸くん、ちょっと待ちなさい」
陸は廊下まで出たが、他の先生に止められてしまった。

「ねえ陸くん、どうして帰ろうとしたの?先生に教えてくれない?」
「僕長野へ行きます。やっぱり長野の行きたいんです」
「どうしたの?急に長野で何があったの?」
「何もありません。何もなかったんです」
「何もなかった?どういうこと?どうして長野なの?」
「僕はもう子どもじゃないんです。長野へ行きます」
「は?陸くん、どうしたの?」
陸は職員室を出ていった。

「あの、今岡さん、今日陸くんが変なことを言っていまして」
「はい?またあの子何かしましたか?」
「いえ、そんな大変なことではないんですが。急に教室を飛び出して、長野へ行くと言っていたんです。今岡さん、陸くん、家で何かありましたか?長野へ行ったのは陸くん一人なんですか?」
「先生、ちょっとどういうことでしょうか?」
「え」
「家のプライベートなことまで先生にお伝えすることはできません。陸は長野のなんて行っていませんよ。先週はずっと風邪をひいいていたんです。もう変な詮索はしないでください」
「そ、そうですか。すみません。私の勘違いです」
「もういいですね」
「はい」
「失礼します」
「僕ね、東御に行ったんだよ。そこには猫がいてね。おじさんと住んでいたんだよ」
先生は陸との会話を思い出していた。
「おじさん」
「何もありません。何もなかったんです!」
先生は陸くんのいつもと違う真剣な表情を思い出していた。

「ゲイブリエル、今日は畑を耕したんだよ。時間はかかるかもしれないが、まずは家庭菜園から始めて、慣れてきたら本格的に就農しようかと思ってるんだ」
「へえいいじゃない。俺も手伝えるように慣ればいいね」
「うん。でもゲイブリエルはビザが降りていないから、まだ畑仕事は無理だよね」
「うん、まだまだ先になりそうだ」