ルミエール〜ベーシックインカム隔離施設②

ブログ小説

工場での3時間の仕事が終わり、高橋と池辺は施設内にあるカフェに移動した。

カフェには多くの人が着ていた。

カフェの利用は1日一杯であればなんでも無料でできるようになっていた。

多くの住民はこの施設で働いた後に、友人たちと休憩していたのだ。

高橋と池辺はそれぞれにドリンクを注文し、テーブルに着いた。

池辺がカフェにやってきたことでみんなが注目していたが、むやみに話しかけてくる人はいなかった。

「私のことなんか言っていませんでした?あいつ」

「神田さんですか?言っていませんよ」

「本当ですか?」

「本当です。さっきも言ったじゃないですかw」

「そうですか、なんか嘘っぽいんですよね。だってそんなはずがないんですから」

「意外と良い人なんですよ」

「そうでしょうか?」

「はい、きっと」

「高橋さんはどうしてここに?」

「え、いきなりですか?」

「はい、私そう言うの構わず聞きたい派なんです。というかまずはお互いの欠点を知らないと」

「え、そ、そうですか?でも言いにくいんですけど」

「いいじゃないですか?高橋さんは私の秘密知ってるんですから?」

「秘密って?」

「ここにいることですよ!」

「ああ、確かに」

「だから高橋さんも秘密!教えてくれないとフェアじゃないです」

「フェアじゃないって、別にフェアじゃなくても良いと思いますけど」

「えー」

「わかりましたよ」

高橋は重い口を開き始めた。

「僕は人間関係をうまくできないんですよ」

「人間関係?」

「はい、少し自分に合わない人とは仲良くできないといか」

「みんなそうじゃないですか?」

「でも僕の場合、仕事の上司にそういう態度を見せてしまうというか」

「そういうって?」

「上司に口出しする感じですね」

「ああ、やばいタイプの?」

「ほら、だから言いたくなかったんです」

「そうですか、みんな欠点はありますから」

池辺はコーヒーを飲んだ。

「でないとここに来ないですよね」

「はいwそれで私は転職を繰り返して、自分に自信を持てなくなったんです。友達も少ないし孤独というか。その点ここはいろんな人に毎日会えますから、なんか孤独じゃないというか。カウンセラーの先生もいますし」

「そうですか!高橋さんはカウンセラーの先生誰なんですか?」

「え、ああ、僕は友寄さんです」

「あー同じ!私も友寄さんです」

「そうですか!」

「はい、私はまあ高橋さんも知ってると思いますけど、不倫して離婚して干されたんですよね。それからSNSで叩かれるようになって、私許せなくてファンの一人に返信しちゃったんです。それからなんか適応障害になってしまって。その時カウンセラーになってくださったのが友寄さんなんです」

「そうなんですか?」

「そうです。友寄さんはマネージャーに紹介されて」

「へえ、友寄さんって外でも活動されているんですね!」

「え、友寄さんってめちゃくちゃ有名なカウンセラーさんですよ?」

「え、そうなんですか?」

「え、知らないんですか?友寄さんはカウンセリング会のドンみたいな人で、どんな患者さんにも親身に対応して直してしまうんです」

「そうなんですか」

「そうです、で友寄さんが私をここに連れてきてくれたんです。はじめは住むつもりなんてなかったんですが、女性もたくさんいたし、秘密保持契約を結んでくれるって言うんで!」

「そうですか。で、友寄さんが”少しでもここで友人を作ったほうがいい”っておっしゃって!」

「ほう」

「それで私、高橋さんを選んだんです!」

「え」

「えって、嫌ですか?」

「嫌じゃないですけど」

「嫌なら良いですよ、今ならまだ」

「ええ、そんなこと一言も言っていませんよ!w」

「だって高橋さんいつも前で作業してるのに全然話しかけてくれないじゃないですか!」

「いや、だから池辺さんは有名人だから話しかけづらいですって!」

「へえ、そうなんですね!多分高橋さんが人見知りなだけだと思いますけど?」

「いやいや、違いますよ」

「もうwよかったら友達になってください」

「あ、まあもうこんなに話しているんで」

「なんですか?もうとっくに友達だって言うんですか?」

「もう、そんなこと言ってませんって」

「えー」

「ちょっと恥ずかしいんで大きな声出さないでくださいよ」

「えーw」

池辺はわざと大きな声を出した。

周りの人が池辺たちの方を見ている。

「ほらみんなが見てますよ」

「いいじゃないですか!私と友達になったら、注目されるのには慣れてください」

「え、あ、まあ確かに。でもなんか嫌だな」

池辺は話している間中、スマホをチラチラ見ていた。

急に池辺の表情が曇ったのを高橋は見逃さなかった。

「すみません。私ちょっと出なきゃいけなくなりました」

「そ、そうですか」

「はい、すみません」

池辺の目には少し涙が溜まっているように見えた。

池辺は今朝仕事を抜け出した時と同じ顔をしていた。

池辺は高橋が心配するのに気にもとめず、慌ててカフェから出て行った。

テーブルには池辺が置いていったコーヒーカップが置いてあった。

厚生労働大臣の板倉と経済産業大臣の梶川が個室で話をしている。

「近頃3時間働けば生きている施設が話題になってるそうですね」

「ああ、ああいうのがあると年金なしでも生活できると勘違いして、政府に楯突く輩がいるんだ」

「そうですね。挙げ句の果てに消費税率を引き下げろとなりかねない。あの施設を壊すよう総理からも言われています。すぐに対処したいところです」

板倉はお猪口にある酒をグイッと飲んだ。

「いやまあ次から次へと新しい事業が立ち上がるのはいいんだが、もっと世間の役に立つ事業をやってもらわんとね」

「しかしその施設はすでに入居者が1,000人を超えているようですよ」

「ははは、1,000人でしょう。そんな数字、存在するに値しませんよ。早いところ潰しましょう」

「誰が立ち上げたんですかね?」

「ああ、それがマップルという大手ECサイトを成功に導いた五本木という男が絡んでいると聞いています。五本木?五本木君は昔対談したことがあるよ。彼が絡んでいるというと少々厄介だね」

「どうしてですか?彼はなかなかしぶといはずだよ。今や日本でトップクラスの納税者だ」

「そうですか。それは少し厄介かもしれませんね」

「だが、我々に潰せない会社はない!ははははは」

高橋は自分の部屋でスマホを見ていた。

池辺がファンとやりあったという投稿は削除されていたが、ネット上にはどんなやりとりだったのか残されていた。

池辺はテレビで干された後も懸命に活動を続けていたのだ。

しかし動画投稿サイトであげた動画へのコメントはひどい批判が多かった。

それでもめげずに投稿を続けた池辺はある日から批判するファンに対して反論するようになっていった。

もちろんそれは別に暴言を使うようなレベルのものではなかったが、SNS上の人はその行為を許さなかった。

反論した翌日から、池辺への誹謗中傷が激しくなり、池辺はSNSからしばらく距離を置くようになっていた。

それから1年が経っていた。

池辺はもう公の場で活動をしていない。

収入源はほぼないに等しいはずだ。

だがマネージャーとやりとりをしていると言っていた。

本当なのだろうか。

SNSにはいまだに池辺を誹謗中傷する投稿が見られた。

不倫の話題が出ると、決まって池辺の名前が出てくるようになっていたのだ。

翌日、高橋と池辺はまた近くで作業をしていた。

「こんにちは」

「どうも!」

池辺はいつもと変わらず美しかった。

だが、全盛期の時と比べるとやはり輝きを失っていた。

「だめだ」

「どうしたんですか?」

「今日も抜けようかな」

「え」

「途中で抜けるとまた所長に注意されてしまいますよ」

「だよね!」

「はい、なんかあったんですか?」

「いえ、別に」

「池辺さん今日終わったらカフェでまた話しませんか?」

「え、あ、はい!」

「なんか元気ないんですね!」

池辺は黙っていた。

「すみません、変なことを聞いてしまって」

また神田が見回りに来た。

池辺は隠れてスマホを見ている。

池辺はまた走って現場から出て行ってしまった。

池辺はまた同じ表情をしていたのだ。

それを見た神田はすかさず池辺を追いかける。

池辺は神田の制止にも関わらず、現場を出ようとしたため、神田は池辺の腕を掴んだ。

「やめてください!」

池辺は神田の手を振りほどこうとしたが、神田は離さなかった。

みんなが集まってきた。

高橋は神田の手を振りほどいた。

池辺は走ってさって行った。

「何してるんですか?」

騒ぎに気づいたカウンセラーがやってきた。

「なんで止めてしまうんですか?」

「途中で抜けたらだめだろう!」

「わかりますけど、彼女には彼女の事情があります」

「だが何度も抜けられるとこちらも困るんだ!」

「けれど、ここで働いている人は精神が不安定な人だっているんで、それはしょうがないと思います!」

「それを直すのがこの施設なんだよ!」

「え」

カウンセラーが二人を止め始めた。

「すみません、もうその辺で!」

「高橋くん!どうしたの?」

友寄さんがやってきた。

「そんなことないですよ!この施設で直そうだなんて!そんなこと誰も思っていません!」

高橋は叫んでいた。

「高橋さんどうしたんですか?」

友寄が高橋を止めた。

「来てください!高橋さんと神田さん!こちらへ」

高橋と神田は友寄に連れられ、工場を後にした。